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ストライク・ジャム

姜 湖 宙

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第8回 蹂躙

     


    サイズ:F10号 画材:アクリルガッシュ

     

     黙っていられなかった。踏んでいるのが私だと気がついたとき。

     しかし、ほんとうに、その足が私の足で、直に感触が伝わってきたとしたら。

     果たして、同じように声をあげただろうか。

     私は遠くにいるので、とても気楽だ。

     今日、東京の編集部の人と電話をしながら、苦労したことがないんです、と率直に言った。

     同胞の彼は、ただ、私が同胞だという理由のみで、私を取材したいと言う。

     その優しそうな声への返事を、どうして今日一日、こんなに悩んでいたのだろう。

     私は、何故、遠くのことを考えるのだろうか。

     それはこの手の中のスマホのせいなのか。

     私は逃げてしまいたい。取材も、会議も、明日のバイトも、作りかけのプラカードも、絵本の依頼も、三百文字の言葉の準備も、バースデーケーキを焼くことからも。

     死んだこどもたちは布に包まれ、ひょいと持ち上げられる。

     かるがるしく。

     わたしの足元を見下ろすと、新しいスニーカーがあって、

     ついにあたたかい靴下も注文した。

     今、彼らが殺されていても、もう今からは子どもの誕生日で、

     たくさんの料理を拵えて、バスボムを買いに行くつもりだ。

     私は呑気に、深刻な言葉を吐くことが許される。

     それはとても、幸福なことだ。

     

     

     

    [© KANG HOJU]

     

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    連載記事

    第1回 父母-pumo-

    第2回 〈TALK〉

    第3回 나와 너〈私とあなた〉

    第4回 湖へ

    第5回 WINDOW

    第6回 知らせ

    第7回 SIDE

    第9回 越境する魚

    第10回 わたしは何を守りたかったんだっけ?

    第11回 distance

    第12回 つなぐ手

    第13回 人生(ランチタイム)

    第14回 失われたものたち

    第15回 通訳(ジャンクション)

    第16回 リラ冷え(バンダジ)

    第17回 空を仰ぐ