サイズ:F10号 画材:アクリルガッシュ
黙っていられなかった。踏んでいるのが私だと気がついたとき。
しかし、ほんとうに、その足が私の足で、直に感触が伝わってきたとしたら。
果たして、同じように声をあげただろうか。
私は遠くにいるので、とても気楽だ。
今日、東京の編集部の人と電話をしながら、苦労したことがないんです、と率直に言った。
同胞の彼は、ただ、私が同胞だという理由のみで、私を取材したいと言う。
その優しそうな声への返事を、どうして今日一日、こんなに悩んでいたのだろう。
私は、何故、遠くのことを考えるのだろうか。
それはこの手の中のスマホのせいなのか。
私は逃げてしまいたい。取材も、会議も、明日のバイトも、作りかけのプラカードも、絵本の依頼も、三百文字の言葉の準備も、バースデーケーキを焼くことからも。
死んだこどもたちは布に包まれ、ひょいと持ち上げられる。
かるがるしく。
わたしの足元を見下ろすと、新しいスニーカーがあって、
ついにあたたかい靴下も注文した。
今、彼らが殺されていても、もう今からは子どもの誕生日で、
たくさんの料理を拵えて、バスボムを買いに行くつもりだ。
私は呑気に、深刻な言葉を吐くことが許される。
それはとても、幸福なことだ。
[© KANG HOJU]
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