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ストライク・ジャム

姜 湖 宙

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第9回 越境する魚

    サイズ:F6号 画材:アクリルガッシュ

     

     黒いアスファルトが熱を集める。いくらか山の傍にあるマンションと言えども、真夏の八月にエアコンなしで過ごすのは辛かった。私は古いアルバムや思い出の品々の整理を、文字通り汗を流しながらせっせと行っていた。この家はもうすぐ私たちの家ではなくなる。空っぽの本棚がぐるりと三面を取り囲む書斎。既に本はすべて処分され、からっぽの本棚にぽつんと魚の置物がある。私が物心ついた頃からいた魚は、此処が韓国だと私に認識させる印だった。魚と、重たい金属製の仏陀の涅槃像、そして滿マンイクの絵。

     古臭い音楽が流れて来る。写真を剝がす手を止め、リビングに出て行くと、金大中がテレビの大画面に映っていた。アニメを観ていたはずの子供はいつの間にかソファーで眠ってしまっている。汗でべったりとした太腿をソファーにつけて座ると、ぬめぬめした。子供の額にはつぶつぶの汗の玉が乗っている。暑い。解放後を振り返るドキュメンタリーは淡々と進む。懐かしさ、あらゆる感情が起きないほど遠く、隔たって感じられる。

     ときどき、もう二度と行けない家を思い出そうとする。二十年間、帰り続けた家であっても、曖昧な空間を描き続けてしまう。急いで魚を描き足し、やっと安堵し、ようやく色を塗り始める。

     

     

     

     

    [© KANG HOJU]

     

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    連載記事

    第1回 父母-pumo-

    第2回 〈TALK〉

    第3回 나와 너〈私とあなた〉

    第4回 湖へ

    第5回 WINDOW

    第6回 知らせ

    第7回 SIDE

    第8回 蹂躙

    第10回 わたしは何を守りたかったんだっけ?

    第11回 distance

    第12回 つなぐ手

    第13回 人生(ランチタイム)

    第14回 失われたものたち

    第15回 通訳(ジャンクション)

    第16回 リラ冷え(バンダジ)

    第17回 空を仰ぐ