携帯電話やコンピューターの生産に必要な希少金属タンタルを採掘する労働者たち
コンゴ民主共和国北キヴ州ビシエ鉱山 2010年
血の鉱物コルタン(錫鉱石)
ジャングルの中にまっすぐに延びた道路を滑走路代わりにしてセスナ機が次々に着陸する。ゴマからは生活物資を運び、帰路はセスナ1機あたり約1800キロの錫原石を運び出す。ここで1機約500ドルの税金を政府軍に払わなくてはならない。錫鉱石からは電子基盤のハンダ付けに使われる錫だけでなく、携帯電話、パソコン、ゲーム機などに使われる希少金属コルタンも取り出される。コンゴ東部に位置するワリカレ周辺では多くの鉱物が産出され、現在も資源の権益争いの渦中にある。
19世紀のベルギー植民地時代、植民地政府がワリカレ近郊の住民たちを呼び寄せて道路を作り、金を採掘させたのが始まりといわれている。植民地政府は住民が鉱物を隠し持っているのを見つけると両足の踵に穴を開け鉄棒を通し、刑務所に入れたという。
地元の猟師が発見した最大の錫鉱山ビシエまではジャングルを歩いて10時間以上かかる。薄暗い明け方から、政府軍兵士、荷役労働者、娼婦――コンゴ全土から仕事を求めて大勢の人間が吸い込まれるようにビシエに向かって歩いていく。途中コンゴ軍と採掘委員会が設けた3箇所の検問所で通行料を徴収される。
50キロもの錫鉱石を担いだ男たちは汗を噴き出し、喘ぎながら山道を登っていく。ブカブから来た24歳の男は、「学生を辞めてここに働きにきた。金を貯めて故郷に戻って商売をしたい」と筋肉で盛り上がった体を休めながら話してくれた。
南アフリカの鉱山会社はコンゴ政府に約10億円を支払い、ビシエ周辺50キロ四方の採掘権を手に入れた。しかし多数派民族で形成されているコンゴ政府軍と地権者であった少数民族、鉱山会社のあいだで権益を巡り三つ巴の争いが起こった。現在は政府軍が武力で鉱山を支配して莫大な利益をあげている。
鉱山会社の現場責任者は言う。「人々は金よりも利益を生みやすい錫鉱石に夢中になっている。ここで採掘した鉱石はゴマでは倍以上の値段で売れる。採掘する交換条件として地元住民には学校や病院の建設、インフラの整備の約束をした。最近、給料の支払いが遅れている。物価が5倍以上もするこの場所で生活するのは厳しい。雇い入れた大勢の労働者は給料未払いのため、ほとんど逃げ出してしまった」
本来、住民に還元されるべき利益は、鉱山会社、軍、政治家に全て吸い取られてしまう。住民には暴力と終わりのない厳しい生活だけが残される。
ビシエを去る日、鉱山会社で働く25歳のアイランドが寂しそうな顔で見送ってくれた。彼は武装民兵に誘拐されて3年間ジャングルの中で暮らした。そして家族のもとに戻ったあとも、生活のため遠く離れたジャングルの中で再び働かなくてはならない。彼の佇んでいる姿が現在のコンゴの情況と重なって見えた。
[© Ryo Kameyama]
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