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戦争

亀山 亮

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第8回 被弾(パレスチナ)

    パレスチナ自治区ヨルダン川西岸地区ラマラ/2001年11月7日

     

     イスラエル兵は石を投げる少年たちに、実弾とゴム弾を交互に撃ち返していた。実弾が体の近くをかすめる時の、キィーンという空気を切り裂く音が不気味だった。

     建物の陰に隠れながら撮影しているうちに、もっと近づいて広角レンズで撮影したくなった。バリケードに身を隠しながら彼らに近づいて夢中で撮影をしていると、「伏せろ、危ないぞ」と少年たちに注意されながらも、行動がだんだんと大胆になっていった。

     ガス弾が撃ち込まれると、雲ひとつない空にぞっとするほど鮮やかで真っ白な軌跡が走った。ガス弾の軌跡と少年たちを一緒にフレーミングしようと四苦八苦しているうちに、気づいていたら立ち上がって撮影していた。

     新たに、ボンと鈍いガス弾の発射音がした。今度こそはと待ち構えるが、なかなかこちら側に着弾しない。おかしいなと思った瞬間、ブーンという大きな音とともに黒い物体がバリケードの隙間から視界に大きく飛び込んできた。わけもわからないまま視界が急に真っ暗になって、一瞬意識が飛んだ。

     意識が戻るとタイヤの焦げた嫌な臭いが鼻腔に入り込んできた。そして焼けるような顔面の痛みのため地面を転げまわっている自分に初めて気づいた。少年たちに引き摺られるように抱えられながら、待機していた救急車に運び込まれるまでの時間が、ずいぶん長く感じられた。

     我に返り、急激にアドレナリンが体内を駆けめぐる。左目が真っ暗で何も見えなくなっていた。血だらけの両手を見て、ようやく自分が撃たれたのがわかった。待たせておいたタクシーに料金を払わないとまずいなと思い、救急車を出ようとすると救急隊員に「ダメだ。お前は動くな」と物凄い形相で両手を持たれ、備えつけのベッドに押さえつけられた。

     後日、タクシーのドライバーと再会し、「妻はお前が撃たれたニュースを見て、俺がお前を連れていったことを知ると、なんでインティファーダの現場なんかに連れてったのよ! と凄く怒ったよ」と申し訳なさそうに言った。

     運び込まれた野外病院のテントで切れた目蓋の周辺を縫合した。撮影する時の利き目だった左目が再び見えるようになるのか、興奮して医者に聞くと、「実弾でなくゴム弾でよかった。大丈夫だ、数時間後にはまた見えるようになる」と言われた。応急処置ののち、運び込まれた眼科の病院で簡単な治療をした。

     ベッドに横たわり、パレスチナに来たばかりで何も撮影できていないうちに撃たれてしまった自分自身に怒りを感じていた。カメラを隣のベッドの上に置いて、セルフタイマーで自分の写真を何枚か撮った。

     

     

    [© Ryo Kameyama]

     

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