F6号、アクリルガッシュ
窓を開けるとペンギンがいた。ペンギンの後を追った。早朝の町は、静かだった。ペンギンはまっすぐ歩いていた。やがて湖に出た。ペンギンは湖に入った。姿が見えなくなってしまった。待ったが、ペンギンが再び姿を現すことはなかった。急に大きな喪失感に襲われた。湖に背を向けた。土の道がぶよぶよして、足が沈んで行く。早く歩こうとした。進めば進むほど、足が沈んで行った。遂に腰の高さまで沈んでしまった。助けを呼ぼうにも、まだ人の気配はしなかった。土を搔き分け、どうにか、この湖を囲んでいる森の出口を目指した。森を出れば、すぐ人家がある。胸まで沈んだ。数メートルしか進んでいなかった。もう無理だと悟った。ペンギンを追って湖に入らなかったことが、実に後悔された。選択を誤ったのだ。振り返ると、湖から上がったペンギンが湖岸で身体をプルルルルッと震わせていた。耳が沈み、鼻が沈み、眼が沈んだ。額に、水滴を感じた。それは、ペンギンが飛ばしたものなのか、雨なのか、わからなかった。
[© KANG HOJU]
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