サイズ:F6号 画材:アクリルガッシュ
黒いアスファルトが熱を集める。いくらか山の傍にあるマンションと言えども、真夏の八月にエアコンなしで過ごすのは辛かった。私は古いアルバムや思い出の品々の整理を、文字通り汗を流しながらせっせと行っていた。この家はもうすぐ私たちの家ではなくなる。空っぽの本棚がぐるりと三面を取り囲む書斎。既に本はすべて処分され、からっぽの本棚にぽつんと魚の置物がある。私が物心ついた頃からいた魚は、此処が韓国だと私に認識させる印だった。魚と、重たい金属製の仏陀の涅槃像、そして李滿益の絵。
古臭い音楽が流れて来る。写真を剝がす手を止め、リビングに出て行くと、金大中がテレビの大画面に映っていた。アニメを観ていたはずの子供はいつの間にかソファーで眠ってしまっている。汗でべったりとした太腿をソファーにつけて座ると、ぬめぬめした。子供の額にはつぶつぶの汗の玉が乗っている。暑い。解放後を振り返るドキュメンタリーは淡々と進む。懐かしさ、あらゆる感情が起きないほど遠く、隔たって感じられる。
ときどき、もう二度と行けない家を思い出そうとする。二十年間、帰り続けた家であっても、曖昧な空間を描き続けてしまう。急いで魚を描き足し、やっと安堵し、ようやく色を塗り始める。
[© KANG HOJU]
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