サイズ:F4号 画材:アクリルガッシュ
子供を守る、という表現が好きではなかった。時々、聞くことのあるこのフレーズは、しっくり来ないまま、それでも私は求められれば惰性的にそれを反復していた。
二十歳の頃の私は、ほんとうに多くのものを手離し、何も持っていないに等しかった。もちろん相対的に見れば、いくつかの特権的な何かを持っていただろう。しかし、それでも、二十歳以前の私と比べれば、大切な人間関係も、安定的な生活も、社会的身分も、何もかもを手離してしまった。歳を重ねれば、それだけ積み重ねたものがあるぶん、保身に走りやすいかもしれない。昔はそんなんじゃなかったのにな、という知人が最近、身の回りに多い。
近頃は家に籠って、依頼された文章を書いたり、本を読んだりする時間が増えた。街頭に出ず、人とも会わず、新しい出会いもない。それなのに、わたしは何かを失くしてしまうことが怖い、と思う。その恐怖がわたしの書く文章に滲み出ていると感じる。そのような感覚はこれまで持ったことのないもので、二十歳以降、わたしは自分の認識以上に多くのものを手に入れて来たらしい。わたしは何かを守ろうと足搔いているが、結局それはわたしの首を絞めているのかもしれない。もっと、多くのものを手離したいと願う。
[© KANG HOJU]
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