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戦争

亀山 亮

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第14回 戦争のトラウマ(ブルンジ・カメンゲ精神病院)

    2007 ブルンジ共和国 ブジュンブラ
    オスカル(25)は着の身着のままの裸足で病室のベッドに一人で座り込んでいることが多かった。

     

     ブルンジにある唯一あるカメンゲ精神病院は中央を挟んで男女別の病棟に戦争による直接、間接的な被害を受けた数十人の患者が収容されている。

     60年代から続いたツチ、フツ族の争いはドイツ、ベルギーの傀儡政権によって激化。

     狭い国土の中で同じ国民として生きてきた普通の人達が民族の違いを理由に棒や石などの原始的な武器を手に殺しあった。

     その結果、ブルンジと隣国ルワンダでは100万人以上の犠牲者がでた。

     政治が民族を利用した結果、人々に猜疑心、恐怖を植え付け不信と混乱が人間の狂気を引き出した。

     「自分の両親を兵士に殺させた隣人に復讐したかった」オスカル(25)はすべての力を使い果たしたかの様に疲れきった表情で話した。

     ブルンジは隣の国ルワンダと同じく、ツチ族、フツ族の2つの民族が昔から一緒に暮してきた。

     ドイツやベルギーの植民地支配者たちが2つの国を支配して以来、支配者たちは自分たちに不満の矛先が向かないようにするために少数派のツチ族と多数派のフツ族をお互いに憎みあうように巧妙に仕向けた。

     オスカルはフツ人の父親とツチ人の母親の間に生まれた。

     村にはフツ人が多く住んでいた。母親はツチ人という理由だけで敵のスパイではないかといつも住民やフツ系反政府軍の兵士たちに疑われていた。

     「兵士や村人たちに母親を差し出せと何度、無理強いされても、父は母を家の中に隠して断り続けていた」

     「ある日、隣の家の男がドアをノックした。安心してドアを開けると兵士が家の中になだれ込んできた」

     「逃げ遅れた両親と弟と姉はその場で殺された。ほかの村人たちは兵士たちを恐れて誰も助けてくれなかった」

     事件の後、オスカルは残った3人の弟を育てていくため大学進学をあきらめて畑で働くようになった。

     「両親が死んでから生活がとても苦しくなった。自分たちを騙して家族を兵士に殺させた隣人を見る度に『殺したい』と思う様になった」

     「村の中を通りがかった時、自分の父親が殺されて『嬉しい』と男が他の村人と笑いながら話をしているのを聞いた瞬間に無我夢中で家に置いてあったナイフと槍を持ち出して男に襲いかかっていた」

     オスカルはその場にいた村人と弟たちによって取り押さえられ首都ブジュンブラにあるカメンゲ精神病院へ運びこまれた。

     彼の腕には村人たちにロープで強く縛られた時にできた痛々しい傷が残っていた。

     「自分たちが生きている間、彼らと一緒に生活していかなければいけないのならば決して赦すことはできないけれど彼らの存在を認めていくしかない」とオスカルは言う。

     治療費を払わないと退院することはできないオスカルは数日後の夜、病院の高い塀を乗り越えて脱走した。

     

     

     

     

     

     

     

    [© Ryo Kameyama]

     

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