戦闘から逃れた国内避難民や行方不明者の家族を支援しているフィルベルト神父(39)。彼と会う約束をしていた当日「昨夜、車を運転中に何者かに銃撃された。今、検察にいる。申し訳ないが次の機会にしてくれ」と連絡が来た。
神父に面会時、ホセと一緒に連れてこられた若い記者(24)もその後すぐに、ヒットマンに銃撃され胸を被弾。幸い命に別状はなかったが、結果的にこの時居合わせた三人全員がカルテルに順々に襲われる事になってしまった。
僕がメキシコ・ゲレロ州に撮影に行く度に現場で困っていると気持ちよくいつも手助けをしてくれる仲間のカメラマンのホセが自宅近くで待ち伏せていた暴漢に襲われた。
僕と同年輩のホセは生まれ育ったチルパンシンゴの隅々を知り尽くし、カルテルの抗争が激化する前から地元の新聞社で働いているベテランだ。
ホセが襲われた一報を聞いた時ついにホセも襲われてしまったかと絶句した。
一昨年、僕が現地で撮影していた時も車に同乗していた4人の記者達がバイクに乗ったヒットマンに銃撃され重傷を負ったばかりだった。
ホセが銃で襲われなかったのは不幸中の幸いで瀕死の重体だったが自宅まで何とか辿り着いて生き延びることができた。
持っていたカメラ機材は盗まれることなく単なる金銭目的で彼が襲われたのではないのは明白だった。
彼が殺されなかったのは意図的でこれからも仕事を続ければ死の扉が開くのは必然だぞという最後通牒の色合いが強いのだと思う。
ホセは政府やカルテルからの賄賂を決して受け取ることはなく、敵対するカルテルが常に介在する中で深追いはせず誰にも与することがないように相当の注意を払って仕事をしてきた。
そしてどんな時でも「自由であること」を心底愛し生まれ育った故郷で一体何が起きているかを知らせる事に人生を賭けていた。
撮影が終わるとホセやその仲間たちと酒を飲むのが日課だ。
彼が休みの週末には大抵痛飲し夜更けに家路につく。
あまり安全とは言えない暗い夜道を千鳥足のおっさん二人でカメラをぶら下げてオダを上げながら四方山話をすることが多い。
「いつ死ぬかわからないから日々の生活を目一杯、楽しむんだぜ」
大好きなビール片手に彼が刹那的に独りごちるのを思い起こす。
何かできることはあるかとホセに連絡すると「体は幾分良くなったが歯がまだ痛くてビールは飲めないよ」と返事が来た。
メキシコで暗殺されたジャーナリストはわかっているだけで160人以上。
脅迫によって活動を中止せざる得ないジャーナリストの数も増加している。
また国内全土で12万人以上の人々が生死不明のまま行方不明になっている。
そして無辜の人々を殺戮する犯罪組織やそれに癒着する政治家や軍、警察が裁かれることは決してない。
[© Ryo Kameyama]
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