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極私的原子力用語辞典

西尾 漠

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第3回 「SMR」「エネルギー基本計画」

    ◉SMR(えすえむあーる)

     小型モジュール炉(Small Modular Reactor)の略。モジュール炉とは、主要機器を工場で生産し、建設地に運んで組み立てるというものだ。とはいえSMRの定義は国や機関により様々で、炉の設計も数多く多様である。

     

    黒歴史と人は言う

     はじめはモジュール炉ではなく、SMPR(Small and Medium Power Reactor)の名で1965年頃から国際原子力機関(IAEA)が「主として開発途上の加盟国が、早期に原子力発電を導入するのを援助することを目的として」中小型炉の開発を促してきた。しかし「結果的には、SMPRは1基も輸出されていない」まま20年が過ぎたと、IAEA/OECD・NEA「中小型炉:プロジェクト開始調査フェイズ1」(1985年)にある。新規導入国も中小型炉に特に関心は示さなかった。

     1979年のスリーマイル島原発事故で新設計画が止まったアメリカで1980年代から90年代半ばにかけて盛んに小型炉の設計研究が行われた。日本の原子力開発利用長期計画(長計)に初めて「中小型軽水炉」が登場したのが1982年である。86年にチェルノブイリ原発事故が起きて、小型炉の安全性が強調されるようになる。87年の長計には「中小型安全炉」と記された。同年にはIAEAなどの主催で中小型炉(Small and Medium-Sized Reactor)に関する第1回国際セミナーが開かれ、日本原子力産業会議が「中小型炉開発・利用に関する欧米調査団」を編成してセミナーにも参加している。

     その後、国際的にも国内的にも中小型炉に対する関心は徐々に色あせ、長計から変わった2005年の原子力政策大綱では、「大型軽水炉を中心とする」とされた。次にブームとなるのは2011年の福島第一原発事故の後だ。長期にわたって開発が叫ばれながら実用化に至っていないことから「黒歴史」と呼ばれてきたSMR開発だが、事故が起こると息を吹き返すことからもそう呼ばれるにふさわしい。

     

    ご冗談でしょう、キシダさん

     2018年に改定された第5次エネルギー基本計画に「小型モジュール炉や溶融塩炉を含む革新的な原子炉開発を進める米国や欧州の取組も踏まえつつ」という表現で小形モジュール炉が初登場する。21年の第6次計画では「高速炉、小型モジュール炉、高温ガス炉等の革新的技術の研究開発を進めていく」とされた。

     2022年8月24日の第2回GX(グリーン・トランスフォーメーション)実行会議で岸田文雄首相は「新たな安全メカニズムを組み込んだ次世代革新炉の開発・建設」などの検討加速を指示した。ところが、26日の電気新聞は「主体、資金いかに」の大見出し。「有識者は『電力会社から具体的な話が聞こえてこない』と指摘」と書いている。25日付エネルギーフォーラムオンラインコンテンツ「目安箱」も言う。「どのような型の原子炉を、どの企業が、どこに、どのような資金調達計画で、いつまでに作る――。これを決めるだけでも大変だ。どの電力会社も原子炉再稼働の遅れや電力自由化への対応で経営不振に直面しており、あらたに巨額の費用のかかる原子力発電所を作る余力はない」。

     それが原子力村の現実的な受け止めらしい。SMRが売り物の一つとしている「安全性」についても、「SMRは一連の未試験の技術革新を導入しており、それがさらなる技術リスクにつながる可能性もある」とOECD-NEA『小型モジュール原子炉―課題と可能性』(2021年)は指摘する。「軽水炉で追求の限りを尽くしてから言え」と、2018年6月20日付電気新聞の匿名コラムには「革新炉」に反発の声があった。

     

    目覚めの時

     もう一つの売り物は経済性だが、小規模から始め、資金を回収しながら順次増設して大きな発電所にするといっても、同一の設計でそれぞれ100基、200基単位で建設されるなら、しかも都合よく順次注文が入るなら、コスト削減の可能性があるというのでは、電力会社も手を出しにくい。

     「最初の1基が完成しないことには量産もできない以上、今は初号機の実現に注力するしかない。安全対策をどのように求めるかといった規制も手探りの中で踏み出すのだから、初号機は工程遅延やコスト・オーバーランも頻発する可能性が高い。そこで開発に嫌気がさして、それ以降の計画が中止されるようであれば、信念を持って実用化したいと考えていた顧客はいなかったことが証明されるであろう」と、日本エネルギー経済研究所の村上朋子原子力グループ研究主幹は『週刊エコノミスト』2022年8月23日号で述べていた。皮肉がキツイなあ。好きだけど。

     

    嘘にも種が要る

     それでは、なぜ進めるのか?

     革新炉ワーキンググループの座長を務める京都大学複合原子力研究所の黒崎健教授は2022年5月16日付電気新聞で言う。「原子力はどうしても悪いニュースばかりが報道される。もっとポジティブなイメージが発信されることで若い人たちに原子力の世界に入ってきてほしい。SMR開発は、そうしたキーワードの一つになるかもしれない」。

     「現実には、国内で直ちに実用化できるほど関心を寄せる需要家が現れ、進展することはないであろう。しかし、開発者は原子力の姿を変えていく覚悟のメッセージにすべきであり、それに呼応して世の中の目や認識を柔軟にし、広げていく絶好の機会にできる」と『エネルギーレビュー』2019年8月号で書くのは原子力システム研究懇話会運営委員の柳澤務元日本原子力研究開発機構理事。外交評論家の金子熊夫エネルギー戦略研究会会長となると、もっと露骨だ。「小型炉(SMR)など『新しい原子力』の開発にもっと努力すべきだ。今や従来型の原子炉では国民もなかなか納得しないだろう。『手を変え、品を変え…』という積極的なやり方がもっと必要だ」(2020年2月3日付電気新聞)。

     その行きつく先は? 2021年12月15日付電気新聞の匿名コラムではこう予言されている。「今日のSMRブームは、大型軽水炉建設プロジェクト数例の失敗にこりた先進国原子力関係者の『わらにもすがりたい』動機から発している。脱炭素やエネルギー価格高騰の解決策として太陽光や風力以上に消費者の支持を取り付けた結果ではない。SMRブームも『原子力ルネサンス』のデジャビュ(既視感)に思えるのは筆者だけだろうか」。

     あなただけじゃありませんよ。

     

     

    ◉エネルギー基本計画

     エネルギー政策の基本的な方向性を示すために政府が策定する計画。ほぼ3年ごとに見直されていて、最新の第6次計画は2021年に改定。

     原子力については「2030年度におけるエネルギー需給の見通し」のなかで「CO2の排出削減に貢献する電源として、いかなる事情よりも安全性を全てに優先させ、国民の懸念の解消に全力を挙げる前提の下、原子力発電所の安全性については、原子力規制委員会の専門的な判断に委ね、原子力規制委員会により世界で最も厳しい水準の規制基準に適合すると認められた場合には、その判断を尊重し原子力発電所の再稼働を進め、国も前面に立ち、立地自治体等関係者の理解と協力を得るよう取り組み、電源構成ではこれまでのエネルギーミックスで示した20~22%程度を見込む」としている。

     

    看板に偽りあり

     エネルギー基本計画の策定は、エネルギー政策基本法第12条で定められている。エネルギー政策基本法は、自由民主党の甘利明、伊藤達也、亀井善之、公明党の河合正智、斉藤鉄夫、保守党の小池百合子各衆議院議員の提案による議員立法により2002年6月7日 に成立、同月14日公布 、施行された。

     文部大臣政務官という立場から提案者に加わっていないものの実質的な中心にいた加納時男参議院議員は、その著『三つの橋を架ける 国政参画十二年の挑戦』(日本電気協会新聞部、2010年)で「世界初、エネ政策基本法を議員立法」と自慢している。アメリカのThe Energy Policy Act は1992年制定ではなかったかといったことはともかく、「国会議員が質問し、国会議員が自身の言葉を使って答弁する。すなわちエネルギー政策に関して、国民の代表者である国会議員同士による非常に価値のある議論が行われたのだ」そうな。

     『エネルギーフォーラム』2001年12月号では、匿名の座談会でこう言われていた。

    「B エネルギー基本法案って当たり前のことを書きすぎて全く中身のない法律だね。

     A それは、議員立法なのか。

     C そうだ。政府提案だと、中身がないため、内閣法制局が絶対にOKしないそうだ。

     B 電力の自由化を阻止するというのが、目的の一つにある。なぜなら、安定供給、環境、経済という三つの価値があって、安定供給、環境の下に経済があるのは、自由化をするなということだ。もう一つは『地方自治体の責務』というのがあり、これは住民投票をするなという意味だ。つまり原発推進法なんだよ。

     C エネルギー基本法案自体には何の中身もないけど、精神法としては存在してしまう。それが、縛りをかけてくる危険はあるな。何だかんだと、電力業界の守旧派が文句を言いやすくなる」(A=国防アナリスト、B=原子力アナリスト、C=経済アナリスト)。

     エネルギー政策基本法と名前はついているけれど、実は電力自由化阻止法であり、原発推進法だというのだ。さすがにそれだけでは格好がつかないので、まずは2条でエネルギー安定供給の確保、次に3条で環境への適合をうたった。そして第4条で「前二条の政策目的を十分に考慮しつつ」市場原理の活用をと定めている。安定供給、環境が段違いに上位(本音では安定供給が最上位)なのである。

     2002年5月17日の衆議院経済産業委員会で提案者の一人である甘利明議員は、こう説明している。「基本法の中に三本の柱がございます。三本の柱の位置づけにつきまして、環境が大事、そしてセキュリティーが同列で大事、そしてその幅の中で経済合理性を追求するということで、若干の三つの位置づけが変化がございます。正三角形というよりは、どちらかというと二等辺三角形型だと思います」。

     これが経済産業省のお好きな「3E」の嚆矢であり、「3E」が同等のEではなく二等辺三角形型だということを明らかにしている。

     

    衣の下の鎧?

     この同じ委員会審議に関して「注目されるべきことは『エネルギー安全保障は軍事的側面を含む』という“世界の常識”が“日本の常識”になりつつあることだ」と喜んだのは『エネルギーフォーラム』2002年7月号の小峰純同誌編集部長の「記者の目」だ。「ここでの安全保障というのは、第一義的には、直接的には、中東諸国の過度の依存をなくすであるとか、供給が中断をした場合、その被害を最小限にとどめるというふうな概念でございますけれども、その延長線上に軍事的な側面も当然入ってくると思います」という、提案者の一人である斉藤鉄夫議員の言を引用している。

     小峰は言う。

     「有事関連3法案[武力攻撃事態対処法、改正自衛隊法、改正安全保障会議設置法、20 04年6月14日成立]も、原発などへのテロ攻撃も武力攻撃事態に加えるべきだ。エネルギー政策基本法を、本当のエネルギー安全保障の視点から担保するためにも、有事関連3法案を修正し、できるだけ早く成立させるべきだ。

     その上で周辺事態法、有事法等を包括的に位置づける『国家安全保障基本法』(仮称)の制定、もちろん憲法改正が期待される」。

     あらあら、そこまで言っちゃうの。

     

    [© Baku Nishio]

     

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    連載記事

    第1回 「まえがき」「IAEA」

    第2回 「Atoms for Peace」「安全性」

    第4回 「核管理社会」「核セキュリティ」

    第5回 「核燃料」「核燃料サイクル」

    第6回 「核武装」「核融合」

    第7回 「規制の虜」「クリアランス」「計画被曝」

    第8回 「原子力安全委員会」「原子力委員会」「原子力規制委員会」

    第9回 「原子力基本法」「原子力資料情報室」

    第10回 「原子力船「むつ」放射線漏れ」

    第11回 「原子力の日」「原子力ムラ」「原子力ルネサンス」

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