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極私的原子力用語辞典

西尾 漠

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第17回 「事故隠し」「司法リスク」「使用済み燃料」

    ◉事故隠し

     文字通り、事故を隠すこと。

     

    見えぬけれどもあるんだよ

     1981年4月1日、敦賀原発(当時は沸騰水型軽水炉の1号機のみ)で1月10日と24日に2回の給水加熱器のひび割れによる冷却水漏れがあり、秘密裏に修理がなされていたことが発覚した。この日から、同原発における一連の事故隠しが次々と明らかになる。

     通商産業省(当時)は、日本原子力発電に対し敦賀原発の6ヵ月間の運転停止という処分で幕引きを図った。運転停止の期間中に補修も定期検査も、ちょうどその期間を要して実施されている。ご念の入ったことで、お見事。

     「今回の一連の事故については原子炉の安全に直接係るものではなく、付属設備の安全管理に係るものであること、かつ今回の事故による外部の環境への影響がないことを踏まえ」という処分理由の一節にもうかがえる企業・行政側の事故に対する認識の甘さは、むろん日本原子力発電と通商産業省にかぎったこっちゃない。

     日本原子力文化振興財団[現・日本原子力文化財団]が経済部記者らに配布している『プレスレリーズ』の第85号(1981年5月8日発行)が弁明する。「すべてのトラブルを細大漏らさず公表していけば、たぶん日本全国の原子力発電所の運転は不可能に陥るだろうし、そのような公表が国民の利益にかなうとは、にわかに首肯しがたい」。

     1981年4月30日付電気新聞コラム「焦点」は居直った。「小さなピンホールを、圧接着や、ごく簡単な溶接で、手早く処理することは、発電所保守のイロハであり、この旧式炉の多発する小故障をいちいち報告し、認可を求めて修理していたのでは、稼働率は上がらない」。(+。+)アチャー。

     敦賀事故は、その後始末においても大量の廃棄物を産み出した。1981年度に敦賀原発で発生した固体放射性廃棄物は、前年度の1.6倍に達した。出力規模で全国の原発の2パーセントにすぎない敦賀原発で、事故の後には全国の固体放射性廃棄物発生量の11パーセントを占めたことを、資源エネルギー庁発表のデータは明らかにした。しかし、浦底湾に流れ出た液体放射性廃棄物については、80年度の放出量データに含まれていなかったし、発覚後の81年度に修正されることもなかった。

     嗚呼、何をか況や。

     

    そんな時代もあったねと

     2002年の夏には、東京電力の「原発トラブル隠し」が発覚した。福島第一、第二、柏崎刈羽の3つの原発の計17基中13基で、重要な機器のひび割れや摩耗などを隠蔽していたもので、隠蔽発覚の出発点は内部告発だった。その後、さらに次々とトラブル隠しが判明し、不正は他の電力会社でも見つかる。その後もなおトラブル隠しは跡を絶たず、2006年11月30日に経済産業省は全電力会社に不正の総点検を指示、07年3月30日には、電力各社から原発だけで97事例458件という総点検の結果報告が出された。まさに底なしの不正だ。それも、コンピュータプログラムの改変だの、計器配線の変更だのと、きわめて意図的かつ恒常的な手口、隠蔽のための積極的な偽装が目立つ。

     柏崎刈羽原発で温排水温度を低く記録するようコンピュータプログラムの改変を行っていた改竄発覚時の、勝俣恒久東京電力社長の記者団への説明がふるっている。「生活の知恵的なものがあったのではないか」(2006年12月1日付朝日新聞)だって。同日づけ毎日新聞によれば「届け出手続きなどをちゃんとしなくても許されるという時代がかつてあった」とも釈明したとか。うーーーーーん。

     そうした時代を2007年2月15日付の電気新聞は「一連の問題は、当時の現場担当者らの法令順守意識の欠如を物語るが、一方ではこの当時、国と事業者が“護送船団”のように原子力の安全維持に努めてきたという時代背景もあった」と肯定的にとらえ、「電力会社は発電所の運営を巡って行政側と事前の相談ができていた。国家公務員倫理法のきつい締め付けがなかったという事情もある。『現地の検査官に対する歓送迎会などは日常的に行われていた』(検査官OB)」と恥じるでもなく報じている。

     対して今は「検査する側が『戦前の特高警察のように違反を取り締まる風潮がある』(経産省OB)」と嘆くのだ。このOB氏は、現役時代にきっといい思いをしてきたんだろうな。えぐ!

     

     

    ◉司法リスク

     裁判所の判決・決定により原発の運転ができなくなるリスク。

     リスク対処のため、2023年5月31日に成立した「GX脱炭素電源法」は、仮処分命令によって命令取り消しまで停止した期間などは運転期間から外すことで、事実上60年をも超える原発の運転を認めるとしていた。

     

    裁きのカリキュラム

     2020年1月17日、広島高裁は四国電力伊方原発3号機の運転をしてはならないとする仮処分を決定した。同高裁では、17年12月にも同様の仮処分が決定されている。いずれも後に取り消されてしまったが、20年1月18日付産経新聞は、こう書いていた。「伊方原発3号機の運転差止仮処分決定は、国がエネルギー政策で『安定電源』と位置付ける原子力発電が、その役割を果たす難しさを突きつけた」。産経新聞の思惑はともかく、原発は「安定電源」という嘘を司法リスクが暴いたことは間違いない。そのことを同紙はわかりやすく教えてくれたんだね。いとおかし。

     「エネルギー安全保障の基幹をなす原子力政策が、地裁レベルの判断で“執行停止”に追い込まれるケースが多発することが想定される」と2016年3月15日付電気新聞で塚原晶大記者は地裁をディスっていたけど、高裁でも司法リスクは原子力政策を“執行停止”に追い込んでいるわけだ。

     2020年12月4日、大阪地裁が大飯原発3、4号機の原子炉設置許可取り消しを命じた時には、8日付エネルギーフォーラムWebオリジナルで佐野鋭『エネルギーフォーラム』編集主幹が悔しがる。「おそらく上級審で覆されるだろう。しかし、『いつ司法判断で止まるか分からない』という不信感を、事業者は今後も持ち続けなければならないことを再認識させられた。『本音では、原発の運営から手を引きたい』。電力会社からは、こんな声が増えてくるだろう。それがこの国の将来にとって良いことか――。裁判官はどこまで考えているのだろうか」。

     そこで、浜岡原発1~4号機の運転差し止め訴訟の静岡地裁判決を前に、疑心暗鬼に駆られた2007年10月12日付電気新聞のコラム「デスク手帳」が勇み足。いわく「運命の刻まで2週間。三権分立とはいえ国家の政策に楯突くは如何」。それが、あらあら26日の判決は住民の請求を棄却。慌てた29日付の同コラムは「よもやの完勝」。

     笑かすでしょ。

     

    雨夜の品定め・続き

     前掲2020年1月17日の伊方原発3号機運転差し止め仮処分に際して、1月23日のDIAMOND onlineでダイヤモンド編集部の堀内亮記者は、安倍政権の姿勢を「塩対応」と非難している。

     「原発は国策民営方式でこれまで推進し、電力業界と政府はガッチリとタッグを組んで二人三脚で歩んできた。電力業界にとって“相棒”であるはずの政府は、原発に対する司法リスクに関しては“塩対応”だ。

     伊方原発3号機の運転差し止めを命じた広島高裁の仮処分を受け、菅義偉内閣官房長官は『原子力規制委員会の審査に適合した原発は、規制委の判断を尊重して再稼働を進める』と、まるでお題目を唱えるかのようにコメントした。

     菅官房長官のこのコメント、全く的外れなのである。そもそも、広島高裁は原子力規制委員会の判断そのものを『不合理』と断じているのだ。

     司法によって原発に“ノー”が突きつけられた場合に対する原子力規制のあり方や原子力行政について語っておらず、安倍政権が原子力行政、そしてエネルギー政策に全く関心がないことの現れである」。

     資源の乏しい日本にあって、原発は“準国産”エネルギーとして重要な位置を占めてきた。世界が脱炭素化社会を目指す上で、政府は原発が『実用段階にある脱炭素化の選択肢』とうたっているが、政策は漂流している」。

     『エネルギーフォーラム』2021年5月号の特集は「原発放置国家」。「国家戦略なき原子力の漂流」って見出しもあったっけ。東北エネルギー懇談会が発行する『ひろば』493号に採録された19年3月の講演では産経新聞東京本社の井伊重之論説委員が言う。「政府が、国のエネルギー政策として原子力の利活用を図るという覚悟も行動も示さず、あいまいなままにしていることが、こうした法廷戦術を許してしまっているのだと思います」。

     原子力の利活用を打ち出した岸田政権下では司法リスクはなくなるのかしらん。

     

    名案あり

     2020年3月発行の『学士會会報』に載った尾池和夫京都大学元総長の随想「日本ジオパークの十年」に「私の提案は、その場所[南鳥島]に人類が産み出した最大の負の遺産である、いわゆる『核のゴミ』を格納するというものである」とあったのに悪乗りして、松浦祥次郎原子力安全推進協会顧問は「この提案がもし現実化すれば、南鳥島は我が国にとって東端の『天恵』とも言える島となるであろう」とのたもうた(5月7日付電気新聞)。南鳥島は、東京都小笠原村に属する日本最東端の島だ。

     『エネルギーレビュー』同年11月号でも、原子力ムラのお仲間である宮﨑慶次大阪大学名誉教授が、2017年6月6日の大阪国際サイエンスクラブ総会での平朝彦海洋研究開発機構理事長の講演に依拠して南鳥島を高レベル廃棄物処分地の一選択肢と提案している。しかし松浦がすごいのは、尾池元総長もびっくりの提案便乗理由だ。いわく「島に住民はいない。島の施設を運転管理する海上自衛隊と気象庁の職員のみが交代勤務をしており、その他は工事関係者などに限り特別許可を得て上陸できる。このことは、原子力問題で最近の困難のひとつとなっている司法リスク等が存在しないことを意味する」。

     拍手!

     

     

    ◉使用済み燃料

     原子炉内で使用された後の核燃料。

     

    名は体をあらわさず

     「日本は使用済み燃料は放射性廃棄物とは定義していませんが、世界を見ると、廃棄物処分と使用済み燃料をどうするかということは、ほぼ同意義です」(鈴木達治郎電力中央研究所上席研究員――『エネルギーフォーラム』2006年11月号)。そんな使用済み燃料を貯蔵したり輸送したりするのにつかう容器をキャスクと呼ぶ。樽型の鋼製容器で、ガンマ線を遮蔽する鉛や中性子を遮蔽するエチレングリコール水溶液といったものが充填されている。「キャスク」には、酒樽のほかに棺の意味があると書かれた辞書があった。「キャスク」でなく「コフィン」とか「キャスケット」とかと呼ぶこともあり、そうなると、はっきり棺の意だ。イギリスのガス冷却炉では使用済み燃料の仮置き場を「モータリーホール(斎場)」と言っていたらしいので、酒樽より棺のほうが相性がいいかもしれない。つまり使用済み燃料は死体のようなものなのですね。

     こんなことをいうと「とんでもない。使用済み燃料はりっぱな資源だ」と、政府や電力会社からクレームがつくだろう。彼らは「リサイクル燃料資源」と名づけた。

     2005年11月、日本初の使用済み燃料貯蔵会社が青森県むつ市に、東京電力と日本原子力発電によって設立された。その名も「リサイクル燃料貯蔵」だ。操業開始は2023年度と計画されている。

     わざわざ「リサイクル燃料資源」と名づけられるようになったのは、使用済み燃料は「即時全量再処理」という原則が崩れたから。六ヶ所再処理工場の操業が始まらないと、同工場に使用済み燃料を運び込めない。仮に操業を開始できたとしても、製品のプルトニウム利用計画が破綻しているから同工場は操業を続けられない。そのための「リサイクル燃料貯蔵」さ。

     リサイクルできないから「リサイクル燃料」なんだね。信じられなーい。

     

    ごみ捨てのルール

     小泉純一郎首相が2003年11月18日、ロシアのプーチン大統領の密使と会い、「北方領土核貯蔵施設」構想を持ちかけた――と、『エコノミスト』2004年1月6日号の「インサイドコラム」が伝えている。北方領土問題を主題とする会談をセットしたのは、自民党の中川秀直国対委員長と尾身幸次衆議院議員・自由民主党科学技術創造立国推進調査会長。知恵をつけたのが、尾身議員に近い現職の経済産業省官僚だとか。

     「この極秘会談で、小泉首相がロシア側に提案したのは『北方領土核貯蔵施設』構想だ。原子力リサイクル事業から排出される核廃棄物を、日露共同で管理運営するというのが提案の中身だ。現職経産官僚が用意した資料では、建設費用は1兆円。もう一つの狙いは、日本政府の施設を建設し、北方領土の実効支配を可能にすることだと説明している」。

     以前にも、鈴木篤之東京大学教授が1999年2月3日付電気新聞で、使用済み燃料の国際的な協力による共同貯蔵場の「立地候補地として挙げられるのがロシアだ」と言明していた。『エネルギーレビュー』の1月号でも、「プーチン大統領のアドバイザーなどを務め」たという日本エネルギー経済研究所の内藤正久理事長が、次のように証言する。「ロシアは最終処理はシベリアでやってもいいと言っています。国内での完全処理にこだわらず、核燃料サイクルの仕組みを見直すくらいの発想があっていいと思います」。

     鈴木提言では、ロシアが「核軍縮に必要な経費を稼ぐことも可能だ」という「国際貢献」の大義名分があった。それもたいがいうさんくさいが、「北方領土の実効支配を可能にする」だとは! 褒められた了見じゃないな。

     もともとロシアは1990年代後半、当時の原子力省が日本を含むヨーロッパ・アジア各国から2万トンの使用済み燃料を受け入れる働きかけをしていた。再処理をして廃棄物の返還はしないという“魅力的な”案もあったらしい。でも、ついぞ実現には至らなかった。そりゃそうだよね。

     ごみを海外にという方策は、すべからくアイデア倒れに終わっている。トーマス・ピカリング米国務次官補と矢田部厚彦外務省科学技術審議官は1980年11月、使用済み燃料を太平洋の島に保管する「太平洋ベースン使用済み燃料中間貯蔵」のフィージビリティ調査を共同で行う協定に調印した。これも立ち消えとなった。1994年夏に開かれた「原子力政策研究会」で、豊田正敏日本原燃サービス社長が述回している。

     「太平洋のどっかの島に貯蔵するというような提案があって、それをやらないとどうも日米の関係が悪くなるような。あんまり賛成じゃなかったんだけど。結局、電力中央研究所と向こうのコンサルタントがタイアップして、私[当時は東京電力常務・原子力開発本部長]が日本の座長になってその研究をやったことがあるんですが。[中略]太平洋の島に貯蔵するには、港が要るんです。港が結構高い、使用済燃料をいくら持っていくかによっても違うんですけど、港の値段考えてしかも輸送費を考えて、これ40年たったら持って帰らないといけないし、あんまり経済的じゃないんです。それで、結局は沙汰止みになりましたけど」。

     1994年11月3日付朝日新聞に「米核実験で汚染マーシャル諸島『日本の核ゴミ、わが無人島へ』」と見出しのつけられた記事がある。マーシャル諸島共和国政府の特別委員会が同年2月1日付で「核物質の長期的貯蔵と永久処分」を提案する文書をまとめていて、10月4、5日の両日に科学技術庁、通商産業省、外務省が「南太平洋諸国を対象にした原子力開発利用に関するセミナー」を開催した際に来日した政府代表らが電力会社などに積極的な働きかけをしていたという。

     豊田の話は、その報道を受けてのものだった。「原子力政策研究会」の主宰者である島村武久元原子力委員が、中国での使用済み燃料処理について続ける。「今日本原燃に行ってる高岡敬展君が、原子力局長の時に中国に行って、その話してるんだよ。だけど恐らく、これは港はどうか知らんけど、奥地へ運ぶのが大変だろう」。

     2011年5月9日付毎日新聞には日米の極秘計画という「モンゴルに核処分場計画」の大見出しが踊り、スクープをした会川晴之記者はその年の「ボーン・上田記念国際記者賞」を受賞。会川記者は21年4月5日付毎日新聞に「日本の『核のごみ』カナダで受け入れ構想」とする記事も書いている。

     他にもオーストラリアだのなんだのといろんな話があったようだけれど、すべて水泡に帰している。あったりまえでしょう。

     

     

    [© Baku Nishio]

     

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    連載記事

    第1回 「まえがき」「IAEA」

    第2回 「Atoms for Peace」「安全性」

    第3回 「SMR」「エネルギー基本計画」

    第4回 「核管理社会」「核セキュリティ」

    第5回 「核燃料」「核燃料サイクル」

    第6回 「核武装」「核融合」

    第7回 「規制の虜」「クリアランス」「計画被曝」

    第8回 「原子力安全委員会」「原子力委員会」「原子力規制委員会」

    第9回 「原子力基本法」「原子力資料情報室」

    第10回 「原子力船「むつ」放射線漏れ」

    第11回 「原子力の日」「原子力ムラ」「原子力ルネサンス」

    第12回 「原子炉」「原子炉立地審査指針」

    第13回 「高温ガス炉」「高速増殖炉」

    第14回 「高レベル放射性廃棄物」

    第15回 「国策民営」「国産エネルギー」

    第16回「再稼働」「再処理工場」「JCO臨界事故」

    第18回 「スリーマイル島原発事故」「全国原子力科学技術者連合」

    第19回 「多重防護」「脱原発」「脱炭素電源法案」

    第20回 「チェルノブイリ原発事故」「チェレンコフ効果」「中間貯蔵」「中性子源」

    第21回 「TRU」「停電」「低レベル放射性廃棄物」

    第22回 「電源開発」「電源三法」「天然ウラン」「天然原子炉」

    第23回 「トイレなきマンション」「東海再処理施設」「東京電力」

    第24回 「動燃」「特定重大事故等対処施設」「トリチウム」「トリップ」

    第25回 「中曽根札束予算」「2次冷却系」「日米原子力協定」

    第26回 「日本原子力産業協会」「日本原子力発電」

    第27回 「日本原燃」「NUMO」「濃縮」

    第28回 「倍増時間」「廃炉」「白金族」

    第29回 「初原子力発電」「半減期」「はんげんぱつ新聞」

    第30回 「ビキニ事件」「避難」「被曝」