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極私的原子力用語辞典

西尾 漠

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第6回 「核武装」「核融合」

    ◉核武装

     国家が核兵器を装備・配置すること。

     

    午の字は、頭を出すと牛になる

     日本は核武装しないことを「国是」としているとされる。いわゆる「非核三原則」だ。すなわち核兵器を「持たず、つくらず、持ち込ませず」の三原則で、1967年5月18日の参議院内閣委員会で増田甲子七防衛庁長官が「政府の方針として核兵器は製造せず、保有せず、持ち込まずというきびしい方針を岸内閣以来堅持しているわけでございます」と確認、12月11日の衆議院予算委員会で佐藤栄作首相によって「私どもは核の三原則、核を製造せず、核を持たない、持ち込みを許さない、これははっきり言っている」とも、順番を入れ変えて「持ち込まず」に言い換えて「持たない、製造しない、持ち込みもしない、この三原則を忠実に守るということでございます」とも表明された。もっとも「持ち込みを許さない」「持ち込まず」(後者はいかにもアメリカさんの立場みたいで変だな)については同月22日の衆議院沖縄問題等に関する特別委員会で、三木武夫外務大臣がこう答弁している。「アメリカとしてはそういうことをするはずはない。われわれは信頼をするわけでございます」。

     「岸内閣以来」の岸信介首相は、1957年2月8日の衆議院予算委員会で「原子兵器を持つというつもりはわれわれ全然持っておりません」と答えている(このころは「原子兵器」から「核兵器」へ呼び方の移行期だったようだ。電気事業連合会流の言い換えとは関係ないんだろうけれど)。一方、4月30日の参議院外務委員会では、こう言う。「核兵器という名がつけば、いかに防御的な性質を持ってるものでもいけないのだ。こうすることはこの日本の自衛の装備を科学的進歩からとめてしまって、そうしていわばこれはちょうど兵器が発達してきたのに、いつまでも竹やりで装備しているのが、それが防衛の何だというわけにはいかぬと思うのです」。よくわからないところもあるが、国会会議録検索システムから引用ママ。5月7日の予算委員会では「憲法の解釈、純粋の憲法解釈論としては、私は抽象的ではありますけれども、自衛権を裏づけるに必要な最小限度の実力であれば、私はたとえ核兵器と名がつくものであっても持ち得るということを憲法解釈としては持っております」と。

     以来、歴代政府は一貫して憲法上核兵器の保有は可能としてきた。

     非核三原則については法制化の声のある一方、「持ち込ませず」は骨抜きになっているうえ、「三原則見直すべき」との声、「核武装すべき」の声も、北朝鮮の核実験やロシアによるウクライナ侵攻など、事あるたびに勢いづいている。核持ち込みの密約とか、非核三原則と核抑止力依存の関係、「核四政策」とかは、専門の方々の論考をどうぞ。

     

    いやな感じ

     2009年5月27日の原子力総合シンポジウムで原子力委員会の近藤駿介委員長はこう発言したという。曰く「米国の核の傘に入ることを明確にすることによって、核兵器国以外で濃縮・再処理を事業として行えている唯一の国にたどり着いている我が国」。

     へえ、そうだったんや。知らんけど。

     ひっきょう原子力の平和利用などというものはありえない。近藤発言は、改めてそれを教えてくれたと言えそうだ。原子力委員会では「どういう風にしたら原爆をつくれるか、というごく基礎的な研究ならやってもいいのではないかという話が再三ありました」と言うのは、1988年3月8日付朝日新聞夕刊「今日の問題」が紹介している、前日に亡くなった有澤廣巳・元原子力委員の言だ。石川欽也『原子力政策の検証とゆくえ』(エネルギーフォーラム、1991年)には「密かに政府から二回も原子力潜水艦の調査研究開始の打診があったが、いずれも蹴ったことを自ら漏らしてくれた」ともあった。

     2011年11月30日の総合資源エネルギー調査会基本問題委員会には、地球環境産業技術研究機構の山地憲治理事・研究所長が「核(兵器とエネルギー)の文明史的意義は否定できない」として、「核兵器を保有せずに抑止力を持つことの重要性」を説く見解を提出、「別に私は再処理とか濃縮とか言うつもりはないのですが、原子力を持つということ自体、原子力技術を持っているということ、これはやはり核の時代において国際的に重要ではないでしょうか」と述べている。「核兵器を保有せずに」と言うが、いつでも核兵器がつくれるということである。

     ただ、さしあたっては保有しないとするのが「正解」らしい。実際に核を持ってしまったら、外交上の切り札を失ってしまう――というわけだ。1969年9月に外務省内の外交政策企画委員会が「わが国の外交政策大綱」をまとめ、「核兵器製造の経済的・技術的ポテンシャルは常に保持するとともにこれに対する掣肘をうけないよう配慮する」とした考えである。とはいえ、そうした考えも、核をもてあそぶことにおいて核武装論と変わりない。そうした政策が核武装論者の温床となっていて、さらに、他国の核開発をうながす役割も果たしているんだよね。

     

     

    ◉核融合

     陽子・中性子の数が少ない「軽い原子核」同士を融合させること。古い文献では「核重合」と書かれている。融合だか重合だかの際に莫大なエネルギーが放出されることから、その熱で発電をすることが計画されている。未だ実験炉以前の段階で、国際熱核融合実験炉(ITER)が2025年の運転開始を目指して建設中。

     核融合は原子核と原子核がぶつかって起こる。原子核の周りの電子が衝突の邪魔をしないように、原子核と電子がバラバラになって飛び回る超高温のプラズマ状態がつくられる必要がある。そのプラズマを閉じ込めるのに何百万度にも耐え得る耐火煉瓦はつくれないので、磁石を使って強い磁力線をつくり、その中に閉じこめる方法と、レーザーを使って燃料を圧縮し、燃料の中心から核融合を起こさせる方法がある(よくわからないけれど)。

     

    復活の日?

     総合資源エネルギー調査会原子力小委員会で議論されている「革新炉」に核融合が入っていると聞いて、耳を疑った。大いに驚いた。1958年9月1日から13日までジュネーブで開催された第2回原子力平和利用国際会議の議長を務めたインドのH.J.バーバ博士が20年以内に実現すると大見得を切って65年近くが経つ核融合である。

     日本では1980年から10年間、以前に増して各大学の核融合研究に多額の国家予算がばらまかれ、高部英明大阪大学レーザー核融合研究センター教授のホームページ(2014年9月10日)には「激光XII号[大阪大学のレーザー核融合実験装置]が出来た頃の第2 次石油危機の時代は、政府主導のTop-down で当時の額で300 億円とも言われるレーザーと堅牢な建物の予算が阪大に投下された」とある。それは特別かなもと思うが、核融合科学研究所の浦本上進助教授の「退官に当たって」(「核融合科学研究所ニュース」1998年5月号)では、研究所の前身の旧名古屋大学プラズマ研究所に入所したころを「まさに、我が世の春でした」と浮かれていた。ブームが去って1989年、名古屋大学プラズマ研究所を改組、京都大学ヘリオトロン核融合研究センターおよび広島大学核融合理論研究センターの一部を統合することにより大学共同利用機関として核融合科学研究所が設立された、そんな核融合である。

     どこが「革新炉」だ?

     近頃では「民間核融合」なるものが流行りらしい。日本原子力学会誌では2022年10月号で「民間資金での核融合」を特集していた。とはいえこのブームもいつまで続くことやら。 浦本助教授は、「退官に当たり、ため息をつく次第です」と言う。「なぜなら、まず、トーラス状[プラズマを閉じ込めるドーナツ状の磁場]の核融合炉は三大障害に完全に行く手を阻まれている。つまり、(1)底知れぬ巨額のお金(今後、何兆円?)と気の遠くなる時間(約50年以上)、(2)巨大で複雑な装置(巨大なものは単純でなくては扱えない)、(3)炉壁の耐熱材料と耐放射化材料は地球上に存在しない、の障害である」。

     お金のことでは原子力委員会ITER計画懇談会の報告書「国際熱核融合実験炉(ITER)計画の進め方について」がITERについてこう高言していた。「幅広い意味での環境負荷や大規模エネルギーとしての供給安定性、原理的な安全性の面などで優れる核融合エネルギー研究開発に対して行う投資は、あたかも人類の将来の自由度を保証するためのものであり、例えれば保険料のようなものであると見做すべきことになろう」。

     時間に関しては50年以上の約半分が既に過ぎてしまった。気の利いた化け物ならとっくに足を洗って引っ込んでいるだろうに。

     

    鍋が釜を黒いという

     核融合を原子力発電と比べても仕方がないけれど、「核癒合はクリーン」だと言う人もいる。大きな事故のときに出てくる放射能で比べれば、原発より少ないことは確かだろう。ただし、日常的な放射能漏れは、原発を上回りそうだ。トリチウムはもちろん、放射性ガスも漏れやすい。核分裂より4倍も多くエネルギーも約7倍高い中性子が発生し、施設内の労働者、さらに周辺住民をも被曝させる。巨大で複雑な装置のため、遠隔操作技術だけでは解決できない。また、機器を強く放射化しすぐに脆化するので頻繁な交換に伴って大量の高汚染廃棄物が出る。

     後に原子力委員長となる藤家洋一名古屋大学プラズマ研究所教授は、こう書いていた。「核分裂発電所と核融合発電所を同じ条件のサイトに建設したとすると、どちらが安全かと聞かれると答えに窮する。“良く分りません”と答えるしかない。全然分らないかと聞かれたら“事故時については核融合炉の方が楽かな、通常時については核分裂炉の方が楽かな”と小声で答えることになるだろう」(1980年8月7日に同研究所で開かれたシンポジウム「核融合炉設計と評価に関する研究」の報告集)。

     1994年11月号の『原子力工業』で、当時の日本原子力研究所の平岡徹特別研究員はこう言う。「核分裂炉はいくつかの神の恩寵のおかげで、ごく自然に短期間で成立した。一方、核融合炉はいわば神に逆らった力づくの技術で、その開発に巨額の費用と長時間を要している」。

     その後何らかの神の恩寵が見つかったという話は………聞かないなあ。

     

    [© Baku Nishio]

     

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    連載記事

    第1回 「まえがき」「IAEA」

    第2回 「Atoms for Peace」「安全性」

    第3回 「SMR」「エネルギー基本計画」

    第4回 「核管理社会」「核セキュリティ」

    第5回 「核燃料」「核燃料サイクル」

    第7回 「規制の虜」「クリアランス」「計画被曝」

    第8回 「原子力安全委員会」「原子力委員会」「原子力規制委員会」

    第9回 「原子力基本法」「原子力資料情報室」

    第10回 「原子力船「むつ」放射線漏れ」

    第11回 「原子力の日」「原子力ムラ」「原子力ルネサンス」

    第12回 「原子炉」「原子炉立地審査指針」

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    第17回 「事故隠し」「司法リスク」「使用済み燃料」

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    第19回 「多重防護」「脱原発」「脱炭素電源法案」

    第20回 「チェルノブイリ原発事故」「チェレンコフ効果」「中間貯蔵」「中性子源」

    第21回 「TRU」「停電」「低レベル放射性廃棄物」

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    第25回 「中曽根札束予算」「2次冷却系」「日米原子力協定」

    第26回 「日本原子力産業協会」「日本原子力発電」

    第27回 「日本原燃」「NUMO」「濃縮」