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極私的原子力用語辞典

西尾 漠

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第21回 「TRU」「停電」「低レベル放射性廃棄物」

    ◉TRU(てぃーあーるゆー)

     transuranium elementsの略。原子番号92のウランよりも重い「超ウラン元素」。

     

    ごめんね、ごめんねー

     よくわからないまま書いていてごめんなさいだけど、アクチノイド(原子番号89のアクチニウムから103のローレンシウムまで15元素の総称。いずれも放射性元素)のうちアクチニウムからウランまでの4元素を除き、さらにTRUからプルトニウムを除いたものをMA(マイナーアクチノイドもしくはマイナーアクチニド)と呼ぶ。使用済み燃料の再処理の過程では、MAのネプツニウム237、アメリシウム241、同243、キュリウム244などを含むTRU廃棄物が生まれる。

     と書いて、また、ごめん。TRU廃棄物にはTRUでないものも含まれるからややこい。ヨウ素129や炭素14、テクネチウム99、塩素36など、TRUと同じく極めて長寿命の放射性核種だ。これら及びTRUを多く含む廃棄物を原子力発電環境整備機構(NUMO)は「地層処分相当低レベル放射性廃棄物(TRU廃棄物)」と、原子力委員会は「長半減期低発熱性放射性廃棄物(TRU廃棄物)」と名付けている。

     高レベル放射性廃棄物と同じく地層処分相当なので、同じ処分場に処分することもできるという。TRU等廃棄物と高レベル放射性廃棄物を並置処分すると、それぞれの危険性に加えて、互いに悪影響を与える危険性があることは論を待たない。TRU廃棄物は、早ければ処分から約10年で地表に漏れ出してくるかもしれないそうだ(電気事業連合会・核燃料サイクル開発機構「TRU廃棄物処分技術検討書」、2005年)。

     TRU等廃棄物も合わせて処分する考えのあることを始めは隠し、明らかになるとその影響を隠す高レベル放射性廃棄物処分場候補地公募のありようは詐欺に近いよね。

     

    どろん

     寿命の長いTRU廃棄物を除くことで、高レベル放射性廃棄物を地層処分した後、早く放射能レベルが下がるようにしようと「消滅処理」なる用語が幅を利かせていたが、2000年3月に公表された原子力委員会原子力バックエンド対策専門部会の報告書では、それまでの名称(「群分離・消滅処理技術」「核種分離・消滅処理技術」など)を再検討し、「長寿命核種の分離変換技術」略称として「分離変換技術」を公的な用語とした。「処理」を廃したのは、TRU廃棄物の処理だけでなく、希少金属核種の分離・再利用なども含まれるからだそうな。文部科学省によれば、「高レベル放射性廃棄物に含まれる放射性核種を、その半減期や利用目的に応じて分離する(分離技術)とともに、長寿命核種を短寿命核種あるいは非放射性核種に変換する(変換技術)ための技術」である。

     TRU廃棄物については、高速増殖炉またはMA専焼炉での中性子照射、あるいは加速器での陽子照射などによって寿命の短い核種に変換することで比較的短時間に「消滅」させようというわけ。

     そんなこと、うまくいくの? 1990年8月30日の「原子力政策研究会」(島村武久主宰)では、当時の科学技術庁原子力局の干場静夫原子力バックエンド室長が「実はここ20年くらい、国際的に研究をやっては来たものの、やっちゃやめの繰り返しで、あまり有望ではないというのが正直なところです」と吐露していた。その20年後の『日本原子力学会誌』2010年12月号で「分離変換技術はどこまで成熟したか?」に答えているのは、同学会の「『分離変換・MAリサイクル』研究専門委員会」。NASAやJAXAなどで用いられている9段階の「技術成熟度(TRL)基準」を適用して種々のMA分離技術の成熟度を評価した。「その結果、それぞれの技術成熟度はTRL2~4程度であること[ほとんどが3以下]、MA取扱いの困難さなどに起因する開発コスト、開発インフラ、技術の成熟の観点から、TRL4とTRL5の間には技術開発上の高い壁があることを示した」という。

     さらに10年余。壁はびくともしないようだ。

     あったり前田のクラッカー(古すぎるか)。

     

     

    ◉停電

     送電が一時的にとまること。山洋電気の製品・技術情報サイトTECH COMPASSによれば「停電の種類には、『瞬低(しゅんてい・瞬時電圧低下)』『瞬停(しゅんてい・瞬時停電)』『停電』の3種類があります」という。最後の停電は「約1分間以上長い電力の停止状態が続くこと」である。瞬時停電にも至らない瞬時電圧低下でも、影響は大きい。「過去には、1/10秒未満の『瞬低』によって、工場が2日間以上操業停止となり、莫大な損害を出してしまった例もあります」と説明されている。

     

    明るいときに見えないものが暗闇では見える

     教育評論家の斎藤次郎は、大停電を「みんなで体験してみる値打ちがある一大イベントだ」と言っていた。「ぼくたちは、押しつけられた『便利』や『快適』の裂け目のむこうに、いのち本来のあり方を、垣間みることができるのではあるまいか」と(『はんげんぱつ新聞』2003年6月号)。

     現実にはとてもそうは言えないけど、気分としてはわかるなあ。電力会社の人たちも、「停電がいい」と思うはずはないけど、必ずしも「電気をたくさんつかうのがしあわせ」とは考えていないのかしら。1988年の電気記念日(1878年、電信中央局開業祝賀宴にアーク灯を点灯した日)に、日本電気協会と関東電気協会がつくった「3月25日は電気記念日」というポスターに、こんな言葉がつけられていた。

     むかし くらやみには

     おばけが たくさん住んでいました

     今はどこへ 引っ越したのか

     明るい世の中 きらいなのでしょう

     愛嬌のある あの顔々に

     たまには 逢ってみたいものです

     

     

    ◉低レベル放射性廃棄物

     日本では、使用済み核燃料を再処理したあとに残る廃液と、その廃液をガラスと混ぜて溶かし、ステンレスの容器に固めこんだ「ガラス固化体」だけを、高レベル放射性廃棄物と呼んでいる。それ以外の放射性廃棄物は、すべて低レベル放射性廃棄物である。その呼び名に反して、決して低い放射能レベルではない。

     

    珍名さんいらっしゃい

     放射性廃棄物政策の歴史は、根拠のない楽観的科学技術信仰と無定見な泥縄的対策がもたらした混乱の歴史だ。簡易埋設→海洋投棄→埋設と揺れ動いた。法が現実についていけず、場当たり的な後追いをしてきた結果である。

     1957年6月公布の原子炉等規制法(核原料物質、核燃料物質及び原子炉の規制に関する法律)の下部法令として、原子炉規則(原子炉の設置、運転等に関する規則)が定められたのが、翌58年2月。このとき、低レベル放射性廃棄物のドラム缶(固体放射性廃棄物)は、簡単に地下に埋めて捨てられると考えられていた。「障害防止の効果をもった埋没箇所その他の廃棄施設」に廃棄と言えば聞こえはいいけど要は埋めてしまえばいいってこと。58年5月の改正で、「埋没箇所その他の」は削られる。いろいろ資料を漁ってみたけど、これもごめん、削除の理由はわからんかった。

     それにしても「埋没」って、ググると「埋没法は、メスを使わず、針と糸のみで二重形成を行うプチ整形」なんぞと美容整形用語があるようだけど、馴染みのない言葉だな。現行の原子力規制法令では「埋設」が使われてる。「埋設」は何かを地中に埋めて設置することだから、「埋没」は設置より簡易なことを指すのか。いや、古い資料では高レベル放射性廃棄物にも「埋没」って言ってるしな。「埋れかくれること。埋れて見えなくなること」(『広辞苑第六版』)だそうだから、隠したい気持ちが強く出ちゃったんかな。

     「埋没」が奇妙な用語と思ったら、そんなもんじゃないぜ。1978年12月に原子炉規則が実用炉規則(実用発電用原子炉の設置、運転等に関する規則)に代えられた。その時に造語されたのが「保管廃棄」。結果、無期貯蔵の状態が続くことになる。「保管」と「廃棄」という、通常の語感ではとても結びつかない二つの言葉を一緒にするしかなかったところに、放射性廃棄物の廃棄がいかに無理なものかが、よく示されているっしょ。

     とはいえ、どんどん保管廃棄の量が増えてくると、そうも言ってられない。そこで浮上したのが海洋投棄計画。海洋投棄という発想そのものは、原子炉規則の制定当初から埋没処分が「著しく困難な場合」の代替案として示されていた。その後、北太平洋の海底への試験投棄が行なわれようとし、法令の整備がなされたのは1980年10月のこと。ところが、法令の整備とは裏腹に、太平洋の島々の住民の力強い反対と、その運動を支持する広範な国際世論のために投棄は困難となり、83年2月にはロンドン条約(廃棄物その他の物の投棄による海洋汚染の防止に関する条約)の締約国会議が放射性廃棄物の海洋投棄は凍結すると決議、断念せざるをえなくなった(93年11月に全面禁止)。かわいそう――じゃないな。

     

    悪魔の公園

     かくて、再び振り出しに戻り、貯まりつづける廃棄物にいよいよせっぱ詰まって、ある程度の危険は承知の上で地下に埋めるしかないということになる。1986年5月の原子炉等規制法改正による「廃棄の事業」の新設だ。それが、青森県六ヶ所村での低レベル放射性廃棄物埋設施設につながった。同施設は1992年12月8日からドラム缶に固化した低レベル放射性廃棄物の受け入れを開始している。

     さすがに、埋めてすぐは「捨てた」ことにはしません。とりあえずは「貯蔵」。地下につくったコンクリート製の施設の中にドラム缶を積む。ドラム缶やコンクリート施設がいたんだら修復する。そうして貯蔵していくうちに、放射能のレベルがじょじょに下がるから、それに応じて、少しずつ管理をゆるめていけばよい――という。

     第一に貯蔵の段階。つづいて、ドラム缶やコンクリート施設から放射能が漏れても、一般の人がそこに近づかないようにすればよい段階。次に、ドラム缶を掘り出したりしないなら、一般の人が近づいてもよい段階があって、最終的には、そのまま捨てたことにしてしまう。

     一般の人が近づいてもよい段階になると、放射能漏れの監視もやめ。土地は誰かに売ってもよいことになるので、児童公園やりんご園にすることもできる、と悪いじょうだんまで言われている。そんなバナナ。

     いや、じょうだんではなく、「処分場を公園として利用することが可能となる」という記述は、原子力安全委員会が1985年10月にまとめた報告書「低レベル放射性固体廃棄物の陸地処分の安全規制に関する基本的考え方について」の中にしっかりあるんですね。

     「埋設センター」も、建設申し入れのころには「貯蔵センター」と言っていた。それが、でき上がったら「埋設センター」に変わってた。ちゃらっぽこもたいがいにしろい。

     

     

    [© Baku Nishio]

     

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    連載記事

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    第2回 「Atoms for Peace」「安全性」

    第3回 「SMR」「エネルギー基本計画」

    第4回 「核管理社会」「核セキュリティ」

    第5回 「核燃料」「核燃料サイクル」

    第6回 「核武装」「核融合」

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