◉日本原燃
青森県六ヶ所村に核燃料サイクル施設を所有する株式会社。未操業の再処理施設、MOX燃料加工施設は、2016年に運営主体が使用済燃料再処理機構に変更され、日本原燃が委託を受けて操業を目指す形に変わった。ウラン濃縮、低レベル放射性廃棄物埋設、英仏の再処理工場から返還されたガラス固化体の貯蔵は従来どおり日本原燃が運営主体。
やめられないとまらない
使用済燃料再処理機構が発足したのは2016年の10月3日。再処理の新たな事業主体だと言いながら、自ら再処理は行なわない。電力会社に再処理等の費用を拠出させ、再処理そのものは従来通り日本原燃に委託するのだ。何のための機構か、どうもよくわからない。それまでの再処理積立金や引当金では、電力会社の社内積み立てなので他の使途に回される恐れがあり、確実に再処理に使われる保証がないと言う。ならば、それを日本原燃への拠出金に変えたらいいだけじゃなーい。2016年1月12日の原子力委員会定例会議で阿部信泰委員(元軍縮担当国連事務次長)も首を傾げる。「今のところは拠出して預けてあるというものを預けではなくて、もう払うという形にすれば、それだけで済むのではないですか」。
責任の所在は、きわめてあいまいになる。使用済み燃料発生者の電力会社、事業主体という機構、その機構の人事や各種計画を認可する経済産業大臣、実務を担う日本原燃。それぞれの責任が見定められない。業務困難な場合には「別に法律で定める」といつもの逃げ。
機構を産んだ再処理等拠出金法制定時の附帯決議では、「使用済燃料の直接処分や暫定保管を可能とするための技術開発や必要な措置など、多様なオプションの検討を進めること」とされた。しかし、法自体は再処理を義務化・固定化しているとしか読めない。阿部原子力委員も「使用済燃料を全部再処理するという政策をここで確実に固定してしまうのではないかという不安がありますけれども」と懸念を表明していた。
と言っても、義務化によって電力会社を縛るというより、電力会社が再処理の責任を逃れ、国が肩代わりすることこそが、経済産業省の狙いかもしれない。電力会社の原発離れを食い止めようというわけだ。2015年11月30日の総合資源エネルギー調査会原子力小委員会原子力事業環境整備検討専門ワーキンググループの会合では、原子力ムラの山名元原子力損害賠償・廃炉等支援機構 理事長が「拠出金を出したから、はい、さようならではないですよということをしっかりとグループとして担保していただけないか」、秋池玲子ボストンコンサルティンググループ シニア・パートナー&マネージング・ディレクターが「拠出金を出した、はい、さようならにならないというところが非常に重要だと思っております」と警戒を露わにしていた。むべなるかな。
原子力規制委員会は、日本原燃を規制するが、機構の規制はできないと説明されている。これまた不思議の国の不思議な機構である。そんな使用済燃料再処理機構の登場で、日本原燃の経営は改善されるのか。20年以上も前のことだけど、原子力村からはこんな声が聞こえていた。
「日本原燃の現在の経営ルールは『原子力長期計画にうたわれているスケジュールにできる限り従って商業用再処理施設を完成させ、運転を開始すること』である。しかし、これは企業として本来あるべき経営ルールではない。
原子力関係者の誰もが、現在六ヶ所村に建設中の再処理施設とそれに続くMOX燃料加工工場では、ウラン燃料や他のエネルギー源との競争環境下で、利益を出すことが不可能なことを暗黙の内に理解している。
企業が衰退しない前に、今わが国に必要なのは企業(産業)なのか、それともエネルギーとしてのプルトニウム利用技術なのか再検討する必要があるのではなかろうか。残された時間は多くない」(新波人――2001年8月27日付電気新聞コラム「観測点」)
それでも手を引かないのは、なぁぜなぁぜ?
◉NUMO(にゅーも)
Nuclear Waste Management Organization of Japanの略。この略称のほうが世間的に通りがよいが、正式名称は原子力発電環境整備機構。高レベル放射性廃棄物処分の実施主体として2000年10月に設立された法定法人である。
名は体を現す
英語名称と日本語名称は大きく違う。英語名称がよく業務内容を示していると思われがちだけど、それって違うよ。原発推進でも反対でも高レベル放射性廃棄物の後始末は必要と言う一方で、説明会やCMでは原発の必要性が強調されている。「トイレのないマンション」と呼ばせないがための、まさしく原子力発電の環境整備のための機関なのであーる。
そんなCMに2006年から07年にかけて出演、「地球温暖化と原子力エネルギー、みんなが考えておく必要がありますね」なんてセリフを語りかけていたという鈴木杏が2011年8月5日、「馬鹿ながらに脱原発、声をあげます」とTwitterに書き込み、ちょっとした話題になったこともある。そのなかで「廃棄物処分のCMもやったことがありました。今、生まれて初めて後悔というものをしています」と吐露していた。翌日には「お世話になった方々に対して、『後悔』という言葉を使ってしまったこと、深く反省しています」と気遣いを示しているけど、廃棄物処分のCMが原発推進CMだったと気づいたということだよね。
なお、このCM、放映していたのはTBS、フジテレビの両キー局とその系列協だけだった。2008年4月8日付朝日新聞が「CM拒否のテレビも」と記事にしている。「TBSは、視聴者からの問い合わせや意見の受付先を明記することを条件に放映している。フジテレビは『原発の推進をあおるようなものではなく、ソフトなCMなので、問題ないと判断した』」と。
なんそれ。
過ちは好む所にあり
2010年にNUMOは、吉本興業とタイアップした「エネルギー・トーク・ライブ」を東京、福岡、名古屋、仙台、広島の5都市で開催した。名古屋以外の4会場では福澤朗元日本テレビアナウンサー、名古屋では朝岡聡元テレビ朝日アナウンサーが司会を務めている。 2010年10月19日付電気新聞は「NUMO 楽しく地層処分理解 吉本芸人招きイベント」と東京でのライブを報じ、「地層処分について、浅越さんは『“捨てる”ということではなく“管理する”ことだとわかった』と話していた」と結んだ。
え? それでいいの?と思ってたら、11月6日付読売新聞にライブの様子を伝えるNUMOの全面広告が載り、浅越ゴエの発言が記録されていた。「最初は知識がなくて、ごみを埋め立てる感じかと思ってたけど、地下の安定性を生かしてしっかり処分する方法だとわかった」。
どのみち賛成はしかねるが、話を初めて聞いたお笑い芸人より専門紙記者のほうが理解が足りないって、どういうことよ。
おまけ。引用した電気新聞の前日18日付の号に「電事連受付にガラス固化体模型」という記事があった。スクラップ帳で隣り合わせになっていたのを見て、2004年3月23日付同紙に上坂冬子が、書いていたことを思い出した。
「はじめてガラス固化体を見たのは10年ほど前、フランスのコジェマ[核燃料公社]だったが、同行の冷静な専門家が、『ああ、これが固化体なのか!』と、興奮して頬ずりせんばかりに顔を近づけ、表面をなでていたのを思い出す。それを見ていた私は私で『この興奮が実物の魅力なのか!』と感動したものだ」と。
実物だったら専門家氏(誰だったのかしら)も上坂センセも、生きてはいません。というか、熱くて近づけないんですけど。
◉濃縮
原子力用語としては主に、天然ウランには0.7%程度しか含まれていないウラン‐235(99.3%はウラン‐238)の割合を高めること言う。遠心分離法、レーザー法、化学交換法といった方法がある。軽水炉用には3~5%に濃縮する。20%以上に高めたものは「高濃縮ウラン」とされ、核兵器や研究用原子炉、軍事用艦艇の原子炉に用いられている。一部の新型炉では20%ぎりぎりのHALEU燃料(5~20%)が使われようとしている。
奮闘努力の甲斐もなく
日本では、原子燃料公社(のち動力炉・核燃料開発事業団、核燃料サイクル開発機構と変わり、現・日本原子力研究開発機構)が中心となって遠心分離法の技術開発を進め、岡山県の人形峠での遠心分離機パイロットプラント、原型プラント運転を経て、日本原燃産業(現:日本原燃)の商業プラントに引き継がれた――はずだが、2000年7月24日の原子力委員会長期計画策定会議で、太田宏次電気事業連合会会長は言う。
「六ヶ所の商業用の濃縮工場は順調にいっているとは言えない。これは旧動燃で技術開発が行われたものであるが、私共から反省点を述べると、十分な技術移転が行われなかったことが挙げられる。技術開示も機微な情報であるとの理由で十分に行われなかった」。
それを受けて竹内哲夫日本原燃社長は「太田委員が、先ほど濃縮事業について述べられたことについては、全く同感である」って、そりゃそうだろうが無責任すぎないか。
2000年7月というと、動力炉・核燃料開発事業団中心の開発ではコストがかかり過ぎだとして1993年から電力主導の「高性能機」開発に転換したのがけっきょく成功せず、断念を目前としていた時期だ。11月にはまた核燃料サイクル開発機構と新たな技術協力協定を結び、「高性能機」に対抗して機構が開発していた「先導機」を受け継ぐ「次世代機」開発に再転換する(「○○機」ばかりでややこいけど、どれも大したもんじゃない)。
11月7日に開かれた原子力委員会定例会議では、日本原燃の笛木謙右常務が「水と油を一緒にするようなものなのだから、振り回してみるべき。過去(のいざこざ)はもう無しにしようということ。もっともきれいごとでは、すまないかもしれないが」と述べた、と『エネルギーフォーラム』2000年12月号は伝えている。遠心分離機だから振り回すのね。
ようやく2012年から初期導入分75トンSWU/年の前半、13年から後半の運転に入った。
ここでSWU(Separative Work Unit)というのは、天然ウランを濃縮する際に必要とする仕事量を表す単位。例えば100万kWの原発で1年間に必要となる濃縮ウランの仕事量は約120トンSWUだそうな。六ヶ所ウラン濃縮工場は1500トン SWU/年を施設規模としているから、およそ10基分か。但し、遠心分離機の新機運転開始が既設機の生産中止に追い付かず、生産機能停止が続き、2023年末現在では450トン SWU/年。うち旧型機375トン SWU/年を新型機に更新するため停止しているので、事実上、75トンSWU/年となる。それも新規制基準に適合させるための工事などで6年間止まっていて、23年8月に運転を再開したばかり。1500トン SWU/年になるのはいつの日かって、そんな日が来るわけもないっしょ。
無駄な話をしよう
2001年2月16日、六ヶ所ウラン濃縮工場の事業許可無効確認・許可取り消しを求めた裁判で、同工場の経済性について青森地裁の証言台に立った。残念ながら翌02年3月15日の判決では無視されたが、1999年9月のJCO臨界事故を惹き起こした背景を例にとって、経済的な無理が安全性に直結し原子力災害を引き起こす恐れがあると証言したのだった。
面白かった?のは、反対尋問だ。肝腎のウラン濃縮工場の経済性はそっちのけで、「志賀原発の建設・運転差止め裁判で証人となったとき[1997年4月23日、名古屋高裁金沢支部]の職業は著述業と言っていたのに、今回は原子力資料情報室共同代表と変わっている」って、別にどっちもウソじゃない、カラスの勝手でしょ、何が言いたいのと思っていたら、「著述業なら提出された著書目録以外にも著書があるでしょう」と、持って回った質問につながった。『現代日本の警察』(たいまつ新書、1979年)とかの著書もありますよと答えたら、反権力的な人物だと証明できたと言わんばかりのしたり顔。『原発なんかいらない』(七つ森書館、1999年)の表紙を示して「こういうお考えですね」とダメ押しのつもり。
言い訳ではないが、もともと広告への疑問から原子力問題に首を突っ込むことになった筆者の、警察の広報戦略批判が『現代日本の警察』という書名になったんだけど。ま、いいか。
2023年3月9日には大津地裁での、関西電力3原発の運転差し止めを求めた裁判で核燃料サイクルの破綻が周辺住民らの生命・身体に与える影響につき証言をした。反対尋問をするのは工学部出身の弁護士らしいというので身構えたのに、経済産業省や関西電力の広報資料の記述を認めてほしいと泣きつくかの如き質問ばかりで、ついつい「論破」しちゃった。つまらねえ。
って、それこそつまらないオマケで面目次第もございません。
[© Baku Nishio]
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